日暮れて途遠し、それでも㋧どこまでも、いつまでも、山谷越え・・・

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「晏子春秋」 内編諌上第二 凡そ二十五章 第二

「景公、愛する所の槐を犯す者を殺さんと欲す、晏子諫む」


【景公が樹を愛して民を愛せざることを戒む】


 景公のとても大切にしている槐の木があった。役人を任命して、守らせ立札を掲げさせた。令を発して景公が言うには、
「槐の木に触れた者は罰し、傷つけた者は死刑だ!」
しかし、酒に酔ってこの禁令を犯す者が現れた、景公、これを聞いて曰く、
「私の出した禁令を無視したのか、逮捕して、罰を与えてやろう。」
すると、その娘が晏子家を訪ねて来て、その法の不当さを訴えて曰く、
「私は城郭に近くに住まわっている、一庶民です。宰相が正しき道の行なって下さる事を願って、面会を申し込みました。この願いをお聞き届け下さるなら、どうぞ私を晏子の侍女の端にお加えください。」


晏子、この女の言葉を笑って聞いて曰く、
「私はそんなことを望まないョ、私は女色に溺れはしないのに、何故、この年になっても女性にモテるのかな(笑) まあ、家に入りなさい。」
女子が家に入るのを見届けて、晏子曰く、
「思い悩んでいるようだ。心を痛めている憂いは何か?」
女子、答えて曰く、
「景公は槐の木を植えて令を発しました。槐の木に触れた者は罰し、傷つけた者は死刑にすると。私の父はふつつか者で、この令を聞かず、酔って罪を犯し逮捕されました。
 私は聞いています。名君の国の政事では、やたらに禄を減らしたり、法外な刑罰は加えないと。また個人的な怒りで罪を与えない、禽獣の為に民を傷つけず、草木の為に禽獣を傷つけず、野草を大切にして、稲苗を害さないと。物事にはすべて軽重があるべきです。わが君、景公が樹木の令をもって私の父を死刑にすると、私は一人になってしまいます。
 この法令は国の法であり、私たち庶民は従うしかありません。
しかし、勇士は大人数を頼んで一人を屈服させることはしない、明恵の君主は非道な事をして自分の欲望を通すことはしないと聞いています。
 なお自ら魚とスッポンを調理する人のように、それがなま臭いと言って、全部捨ててしまう事はしません。そのなま臭さを取り除けばいいのであって、人民を治めるにあたっても、弊害のある事柄を取り去るだけでよく、小さな事で人民を傷つける必要はないはずです。
暗闇の中に人を並びいれ、動けば危害に遭うような、屋根の無い野積の米倉に列座させ、心身がどうなるか解らないような、法令の苛酷さで国民は不安です。
 国の法令が正しくて父が罰されるならば、父の死罪も当然で、私が死罪になった父の遺骸を棺に納めることも異存はありません。
 しかしながら、今の法令は不条理です、木々の為に父は罪を得ました。私は警察官が明確な職務を全う出来ず、賢明なる君道を害することになることも恐れています。
 隣国が聞いたなら、景公は木々を愛して国民を卑しめているとは遺憾だなと。これでは隣国に侮られます。
 願わくは相国様(晏子)、私の言い分を認めてくださって、禁を犯す者を公正な法令によってお裁きください。
晏子曰く、よく解った、私があなたの為に、景公に意見しましょう。」
晏子は人に送らせて、彼女を帰した。


早朝、景公に拝謁して晏子曰く、
「私が聞き及ぶには、民衆の財力を弱めて、私事の欲望に供えさせる、これを暴といいます。自分の好むもの、槐を大切にして、槐に威厳があるようにして、それが君に匹敵させるようなことを逆と言い、刑罰が不当であることを賊といいます。この三者が国を守るための大いなる禍になるのです。
 今、君は民の財力を弱めて、自分の飲食を贅沢にし、音楽を大いに奏でて、宮廷の美観も極まりない、暴を大いに行っている有様です。自分の好みで槐の木を愛し、それに令を設けたがゆえ、乗り物でその前を行く者や、歩行者は法令を恐れて槐の木の前を走り過ぎていきます。この令に威厳があるとしても、民にとってははなはだ迷惑です。


 槐の木に触れた者は罰し、傷つけた者は死刑、刑が重すぎ、民を罪に落とすばかりです。
君が斉の国を継いで、その徳行は未だ民に知れていませんが、先の三つのよこしまである、暴・逆・賊は国によって行われています。
 私は景公が、君主になったのに、人民を我が子のように愛し、労わらない事が心配なのです。


景公曰く、
「大夫が私に教えてくれる事がなければ、罪ばかりがあって国に害を及ぼす事になるであろう。今、晏子が教えてくれる事は社稷にとって、明るいことだ。私は晏子の教えを守ろう!」


晏子が景公の前から下がると、景公、役人に槐の木を守ることを辞めさせ、禁札を掛けた木を抜いて、槐を触る、傷つけるの法を廃した。槐を犯す囚人がいなくなった。



長い章だな。なお。この女性の事は,列女伝という書物にもある。